東京高等裁判所 昭和35年(ネ)830号 判決
一、国税徴収法施行規則第二十九条に準拠してなされる交付要求は、納税者の財産に対する強制執行に参加し、その手続を利用して換価金から租税債権の弁済を得ることを目的とするものである故、性質上民事訴訟法における配当要求に類似し、従つて不動産に対する強制執行の場合には、同法第六百四十六条第二項により競落期日の終に至るまでこれをなすことを要すべく、任意競売の場合でも配当手続を行うときは、右と同一の制限を受けるものと解される。しかしながら、地方税の本税に付帯する延滞金及び延滞加算金の如きは、本税の未納が続く限り、その変動する未納額に対応して引き続き発生する関係上、予めその数額を確定して交付要求をすることができないのは当然であるから、これ等付帯金については税目を表示し、将来計算確定する趣旨を明示して競落期日までに交付要求をしておけば、後日配当期日の指定をまつて精確な数額を計算して交付要求をしても、それは当初の交付要求の内容を補充するに止り、別個新な交付要求と目すべきではなく、一体として有効とすべきである。ところで被控訴人群馬県の提出した昭和二十九年二月五日付交付要求書には、昭和二十六、七、八年度入場税の延滞金及び延滞加算金だけを記載してあるけれども、その末尾に、「本税滞納金については納入される日まで延滞金延滞加算金が加算され」る旨及び「月税のため今後調定されるたび税額が増加」する旨註記してある故、その後配当期日(昭和三十三年十二月十二日)前同年十一月二十四日付で提出した交付要求書において、右三ケ年度における延滞金延滞加算金の数額を一部訂正し、且つ昭和二十九年度の金額を計上加算したのは相当であつて、それは適法な交付要求の範囲に属するものというべきである。
二、地方税法第十五条第八項には「納税者又は特別徴収義務者の財産上に質権又は抵当権を有する者が、その質権又は抵当権が地方税の納期より一年前に設定されたことを、公正証書で証明した場合においては、その財産の価格を限度として、当該質権又は抵当権が担保する債権に対しては、地方税は先取しない。」と規定してあり、これを同条第七項の「地方税の督促手数料、延滞金、過少申告加算金、不申告加算金、重加算金、延滞加算金及び滞納処分費は、地方税に先だつて徴収する。」との規定と対比するときは、第八項の「地方税」は第七項におけるそれと同様、督促手数料延滞金等の付帯金を含まない本税だけを指すもののように読まれ、一見地方税の本税は、第八項所定の担保付債権に劣後するものの、その付帯金は本税に先だつて徴収する関係上、結局担付債権にも優先することとなるように、解される。しかし、地方税法第十五条第八項の規定は、同条第一項に掲げる地方税優先徴収の原則を、取引安全の要請の前に自制せしめたものであつて、若しかかる制限を置かずに徴税の優先を計るときは、担保の供与に安じて取引した一般私人に不測の損害を与え、担保物権制度の効用を破壊するに至るのである。地方税法第十五条第八項の制定趣旨が右のとおりであつて、法定の条件を備えた担保付債権が地方税の本税に優先する以上、その付帯金に対しても優先するのはむしろ当然といわなければならない。蓋し付帯金は本税の存在を前提とし、これに付随してのみ成立するものであるのに、担保付債権が基本たる本税に優先しながら、付帯金に劣後するというのはそのこと自体明かに不合理であり、前記立法の趣旨を没却することとなるからである。元来地方税法の右条項は旧国税徴収法(昭和三十四年法律第一四七号による改正前)第三条の規定に倣い、国税を地方税と置き換えた外、殆ど同一の用語に従つたものであるところ、国税徴収法第三条については、交付要求の場合、国税はその本税だけでなく、利子税各種加算税督促手数料滞納処分費までも含めて担保付債権に優先しないものと解釈され、運用されていたのであつて、このことも地方税法に関する前記解釈を裏付けるに足るものと考える。またこれを現行地方税法(昭和三十四年法律第一四九号による改正法)について見るに、その第十四条の五に、地方税の督促手数料延滞金各種加算金及び滞納処分費は、地方税に先だつて徴収すると規定しながらも、それは地方団体の徴収金のうちの優先順位を定めたものであることを明かにし、同条の九、十により地方税の本税並に付帯金を含めた徴収金全体として、その納期前に設定登記した質権抵当権に劣後することを規定し、解釈上の疑義を残さないよう用意している。しかし取引の安全保護の要請に基く担保付私債権優先の趣旨は、地方税法の改正の前後を通じて変るところなく、ただ改正法は規定を整備し詳密にして運用の適正を計つたにすぎないものと思われる。これを要するに、旧地方税法の下においても、改正法におけると同様、担保付債権は地方税の本税に対してだけでなく、付帯金に対しても優先することを定めたものと解するのが相当である。
(二宮 奥野 渡辺一)